令和5年12月二ノ瀬町臨時総会において「二ノ瀬まちづくりビジョン」が策定されました。
二ノ瀬まちづくりビジョン
1 地域の概要
二ノ瀬町は自然豊かな山の中にあり、四季折々の風景を満喫することのできる集落です。歴史も深く、古くは平安時代に惟喬親王が二ノ瀬に滞在し、江戸時代には儒学者林羅山の領地でもありました。いにしえよりこの集落では林業が生活の糧となり、祭事などでも山の木を使った「お火焚祭」などが行われ、木と山が生活の中心となっていました。しかし近年、生活に必要なエネルギーが薪炭から電気やガスなどに変わったことにより生活における価値観が変化し、生活の中心は山から集落部へと移り替わりましたが、それでも二ノ瀬が山に囲まれた自然の中に存在する集落であるという事は変わっていません。
自然豊かな二ノ瀬町には電車やバスといった交通インフラがそろっており、京都市内中心部への公共交通機関でのアクセスが非常に容易であり、「都会で働いて、自然の中で暮らす」という生活が実現できる集落でもあります。集落内部には商店や自動販売機などは存在しないものの、徒歩15分圏内にスーパーやコンビニといった生活に必要な商店も存在する非常に生活のしやすい集落です。また、二ノ瀬の北隣りには鞍馬寺や貴船神社といった日本有数の観光地があり、観光シーズンになると非常にひどい交通渋滞に悩まされてきた集落でしたが、平成25年に二ノ瀬トンネルが開通して以降、渋滞問題も解消され非常に生活しやすい集落となりました。
このように素晴らしい住環境であるにもかかわらず、近年の二ノ瀬町は人口減少や少子高齢化、空き家の問題など様々な問題を抱えています。平成27年には150人いた人口は、わずか8年後の令和5年には119人まで減りました。人口における65歳以上の割合も48%と限界集落一歩手前の状態まで人口のバランスが崩れています。
二ノ瀬町は東西を高い山に囲まれた谷あいの集落で、もともと建物を建築できる土地や道路を拡張する土地が少ない集落です。その集落の真ん中を一級河川の鞍馬川が通っています。このような地形ゆえ崖条例の対象となる2メートルを超える段差がいたるところにあります。さらに二ノ瀬町は市街化調整区域、風致地区といった家の建築や建て替えに対して非常に厳しい条件がかかっている地域であり、これらの地形や法令からくる建築条件から「二ノ瀬は家の建築や建て替えが非常に大変」という心理的な障壁を生み出し、不動産の健全な流通に阻害をおこしている現実があります。
また平成29年には土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域に指定された事で買い手から敬遠される家や土地が増加し、不動産の流通に一層の歯止めがかかってしまいました。
平成30年には大型の台風により二ノ瀬一帯で大規模な倒木などの災害が発生しました。大量の倒木が発生し、倒木が家に倒れ屋根を打ち破る、倒木が線路を防ぐなどの被害も発生し、山主はその対応に追われることとなりました。二ノ瀬はそのような自然災害のリスクも抱えています。
私たちは法令によって家の建築や建て替えが厳しい状態でありつづけることは、人口減少、少子高齢化、空き家の問題を加速させる要因だと考え、地区計画を策定することによって「まちづくりの土台」を作り、様々な問題解決の第一歩とすることとしました。
2 地域の将来像
2-1 まちづくりの理念・基本的な考え方
「皆の力で守り育てる、節度ある営みと豊かな暮らしがあふれる二ノ瀬」
二ノ瀬は都会の喧騒からはなれた豊かな自然の中にあるとても静かな集落です。我々はこの自然豊かな環境を守り、安心で良好な住環境を育てつづけることで、行き過ぎた建物や土地の利用のない、節度ある営みと豊かな暮らしがあふれる住宅地として二ノ瀬のまちづくりを目指していきます。
2-2 地域の目標・将来像
我々は二ノ瀬が豊かな自然に囲まれた小さな集落であることを活かし、次のような豊かな生活を送ることができる「住宅地としての二ノ瀬」を目指していきます。
①健康で文化的な生活
私たちは、二ノ瀬に住む一人ひとりの生活の質を向上させるため、団結して健康で文化的な生活が送れるまちづくりを目指します。また、建物や土地の用途に対して節度ある緩和を行い、節度ある営みと豊かな暮らしがあふれる住宅地として二ノ瀬のまちづくりを目指していきます。
②安全で安心できる生活
私たちは、安全で安心して生活できるまちを目指し、防犯防災の意識を向上させ、常に万が一の事故や災害に備えていきます。人間の力では防ぐことのできない自然災害にあたっては早期の避難を呼びかけ合うなど地域コミュニティの力で助け合い安全で安心できるまちづくりを目指します。
③集落内外の円滑な人間関係
私たちは、円滑な人間関係を育むため町内会や伝統文化行事を通じて交流を行います。また、集落内外の関係組織とも協力し、より良い生活のできる住環境を整えていきます。
④豊かな自然を満喫できる日常生活
私たちは、町内や山林など身近に存在する草木や動物などの豊かな自然を満喫できる環境を守り、日常生活の中から自然を愛でる心を持つ人物を育み、これからも二ノ瀬町の自然、文化、歴史を紡いでいきます。
⑤持続可能な地域生活
私たちは、これからもこの集落が存続していくため、二ノ瀬町に住む一人ひとりの人生を尊重し、相互に支えあい助け合いながら、その時代時代に即した持続可能な地域生活を作っていきます。
3 地域のまちづくりの方針
我々は「節度ある緩和」を大きな方針とし、「無理なく続けるための5つの心得」を大切にしながら、まちづくりを進めていきます。また「安全で安心な生活のための注意点」を守り、倒木等の災害のリスクや土砂災害警戒区域などの地理的、心理的なハードルがあっても「移住したくなる二ノ瀬」になるよう豊かな自然、安全で安心できる生活環境、住環境を守り、豊かな自然環境の中で個人個人の生き方の幅が広がる住宅地としてのまちづくりを行います。
<節度ある緩和>
①豊かな自然環境を守る
- 集落内の建築や開発が可能な場所を地区計画の区域に指定する
- 地区計画の区域外における土地や山林に対しては現状の厳しい法令による規制にもとづき、これまでと同様に豊かな自然を守っていく
- 草刈りや清掃などの集落内の生活環境の維持活動を通じて自然を守る
- 風致地区条例(二ノ瀬特別修景地域)、自然風景保全条例など現在二ノ瀬にかかっている各種条例を「自然環境を守る基準」とし、条例の周知を行う
- 鞍馬山風致地区の草木や動物など自然への理解や自然の恵みの活用など二ノ瀬の自然に対する「再認識」の活動を行うことで、老若男女問わず二ノ瀬の自然に興味を持ってもらい、「豊かな自然環境を守る人」を育てる
②安心で良好な住環境を守る
- 住環境を守るうえで、住宅地としての二ノ瀬をまちづくりの基本とする
- 住宅地としての「良好な住環境」が作れる建物用途を地区計画にて指定する
- 建物用途の緩和によって路上駐車や渋滞など道路交通での問題が発生しないよう地区計画にて店舗兼用住宅の床面積の制限等をおこなう
- 二ノ瀬に居住する人の日常生活とは無縁な建築資材等の物件の堆積で「安心で良好な住環境」が損なわれることが無いよう注意を促す
- 住民の不安となる脱法的な民泊行為や建築行為に対して注意を促し、行為発生時にはしっかり対応することで安心で良好な住環境を守る
- 災害に対する備えを怠らず、災害発生時に地域住民の連携などによって避難などの呼びかけや助け合いで人的な被害を防ぐことのできるコミュニティを目指す
- 車や人の往来の危険にならない様、庭木の管理に気を使う
- 安心で良好な住環境を守るため、クラブ活動のような草の根レベルでの活動を行える環境を作り、楽しみながら「良好な住環境」を守っていく
- 防犯防災の活動を通じて、将来発生する可能性がある事件や事故、火災や倒木等の発生を未然に防ぐよう努める
③人口が増える移住、定住、世代交代のしやすい環境を育てる
- 移住、定住、世代交代をしやすい環境を作るため、地区計画で属人性のない住宅を建てられるようにする
- 集落での生き方の幅が広がるよう地区計画で、地域ごとの道路状況などの特性に応じて店舗兼用住宅や近隣の山林の恵みを活用できる集荷場や建物などを建築できるようにする
- 集落の人口が増えない単独店舗は地区計画によって建物用途の制限を行う
- 二ノ瀬の文化、自然豊かな風景を守り、地域としての魅力の底上げを図る
- 有効な空き家対策を行い移住定住を促進し人口減少に歯止めをかける
- 二ノ瀬の情報を移住希望者、在住者ゆかりの方に配布し移住や世代交代を促す
- 忙しい時代、誰もが参加しやすい小さな町内会を目指し、ゆるーい田舎暮らしができる二ノ瀬を目指す
- クラブ活動のような草の根レベルでの活動を通じて、二ノ瀬で生活する楽しみを発見し、その楽しみを外部に伝えていくことで「二ノ瀬に住みたい」「ずっと住み続けたい」という人が増えていく環境を作る
<無理なく続けるための5つの心得>
①たのしく (心掛)
楽しいという気持ちが大切。楽しい気持ちが色々なものを守る、育てます。
②かるく (安心)
できるかぎり負担にならないように、お金も作業も気持ちも軽く安心に。
③つながり (共有)
文化、情報、楽しい感情。色々なことを上手につなげて、みんなで共有。三人寄れば文殊の知恵です。
④はぐくみ (尊重)
育っていくことは、ゆっくり少しづつ変わっていくこと。尊重が小さな変化を生んでいきます。
⑤つづける (継続)
無理なくつづけることが大きな力になっていきます。
<安全で安心な生活のための注意点>
- 何事も安全第一、災害時の避難方法と避難時の連絡先を常に確認できる状態に
- 渋滞の発生、救急や消防などの緊急車両の邪魔になる路肩駐車をしない
- 車や人の往来の危険にならない様、庭木の管理に気を使う
- 焚き火をする際は、必ず消防に連絡を入れる
- 道路や河川などの小さな気づきが大きな災害を防ぐこともあります